「自己破産」に関するお役立ち情報
自己破産における破産管財人
1 同時廃止と管財事件
自己破産には、同時廃止と管財事件という2つの分類があります。
同時廃止とは、破産手続きが始まると同時に手続きが廃止になるという意味で、債権者に分ける財産がないこと等、一定の要件を満たした場合に、管財人を選任せずに行う破産事件をいいます。
管財事件とは、破産手続きのうち、管財人が選任される事件のことをいいます。
2 管財人とは
⑴ 申立代理人との違い
管財人とは、裁判所が選ぶ第三者的な立場(債権者と債務者のどちらの味方でもない、中立的な立場)の弁護士です。
自己破産をする方がご自身で依頼される弁護士は、自己破産の世界では、申立代理人と呼ばれており、先ほどの管財人とは、別の弁護士です。
申立代理人とは、自己破産をする方の代理人として、自己破産したいという申立てを裁判所に対して行う者という意味です。
⑵ 管財人が選任される理由
自己破産をする方が依頼される弁護士は、基本的に、自己破産する方に有利になるように、資料を整えたり、債務が増えた理由やお金の使い道がやむをえないものであったことを説明したりします。
お金を貸した人(債権者)からすると、自己破産をする方に有利な資料や事実を集めたり、説明する人しかいないのでは、財産を隠しているのではないかとか、お金の使い道や借入の理由について正しく申告していないのではないかといった疑問がわくこともあります。
そのような債権者の疑問を解消せずに、自己破産で債務の支払義務を免除することを認めてしまうと、自己破産という制度に対する信頼もなくなってしまいます。
そこで、裁判所は、自己破産の申立てがあれば、同時廃止とするか、管財事件とするかを判断し、管財事件にすべきと判断すれば、管財人という、第三者的な立場の弁護士を選んで、本当に自己破産する方に財産がないのかや、債務が増えた経緯を調査して、支払義務を免除してよいのか調査させることになっています。
このように、自己破産する方の味方という立場ではなく、債権者の利益も考慮して自己破産する方を調査するのが、管財人の役目です。
3 管財人が選ばれるケース
⑴ 財産状況にまつわるケース
これをもう少し分類すると、以下の3つがあります。
①実際に財産が残っている。
②使い道が分からないお金があり、財産が使われずに残っている疑いがある。
③不適切なお金の使い道があり、相手方から取り返してくる等で債権者に分ける財産ができる可能性がある。
①実際に財産が残っている
①は、例えば、自己破産する方が、解約すると50万円になる保険を契約している場合です。
この場合、管財人は、保険を解約して、50万円全額か一部を債権者に分けるのか、自己破産する方の手元に残すことを認めるのか判断し、債権者に分けるべきであると判断すれば、実際に保険を解約して債権者に分けます。
②使い道が分からないお金があり、財産が使われずに残っている疑いがある
②は、例えば、自己破産を弁護士に依頼する1か月前に車を売って100万円の代金を受け取ったが、その使い道が十分に説明できていないというような場合です。
通常の家庭生活であれば、100万円もの大金を1か月で使い果たすのは考えにくいと言えます
領収書その他の証拠資料をもって使い道が説明できなければ、使い道が分からないお金があり、100万円の一部はまだ残っている疑いがあるということになりがちです。
この場合、管財人は、100万円の一部が残っていないのか、残っていないとすればその使い道を明らかにするよう求め、ギャンブルや不適切な使用があれば、それを弁償させるのか、そもそも免責を認めない(債務の支払義務を残したままにする)のかなど検討することになります。
また、現在個人事業主や法人の代表者である方や、以前事業をされていた方は、サラリーマンに比べてお金の流れが複雑になりがちで、使い道が分からないお金があるという判断を受ける可能性が高いため、注意が必要です。
③不適切なお金の使い道があり、相手方から取り返してくる等で債権者に分ける財産ができる可能性がある
③は、例えば、自己破産を弁護士に依頼した後に、50万円の賞与を受け取り、勤務先の同僚に借りていた50万円を全額返済した場合です。
自己破産を弁護士に依頼した以上は、債権者に対してはみんな平等に返済をしないようにしなければならず、勤務先の同僚からの借入だけを優先して返すことは、禁止されています。
管財人は、このような自己破産のルールに反する返済や財産の流出がある場合は、相手に請求して取り返す権限をもっています。
今回の例では、管財人は、勤務先の同僚に50万円を返すよう求め、話し合いで返してもらうことができなければ、裁判をして取り返し、50万円を他の債権者にも平等に分けます。
⑵ 債務が増えた経緯に問題があるケース
破産法には、免責してはいけない場合として、次の場合をあげています。
①うその収入や借入額を申告して借入をした場合。
②投資の失敗やギャンブルなどの無駄づかいによって大きく財産を減らしたり、多額の借金をした場合。
③クレジットカードで買ったものをすぐに売ってお金にかえた場合。
このような、不誠実な理由で借金が増えた場合は、債務の支払義務を免れることを認めないとしているのです。
ですから、パチンコや競馬などのギャンブルが主な原因で多額の借金ができた場合や、FXなどの投資で失敗して多額の借金ができた場合などは、原則として免責を受けることができません。
しかし、このような場合に一律に免責を認めないとすれば、無職・無収入の方などは、他の債務整理も行えず、経済的に立ち直ることが全くできなくなってしまいます。
そうなると、借金を苦に自殺したり、夜逃げする方が増えることになりかねません。
実際は、仮に免責を認められない事由があっても、生活状況がどれくらい改善されているか、破産手続に誠実に対応しているか、借金が増えた原因が他にもないかなどを考慮して、裁判所の裁量で、債務の支払義務を免れることができる場合もあります。
このように裁量で免責を認めてよいかどうかの調査のために、管財人が就任することになります。
4 管財事件にかかる費用の違い
管財事件には、裁判所に納める費用(予納金)による分類もあります。
予納金額が20万円強の少額予納管財事件と、40万円程度か場合によってはそれ以上になる通常管財事件があります。
裁判所ごとに予納金額の決め方は異なりますが、一般的に、財産の額が相当に多い場合や、不動産等お金に換えるのに手間がかかる財産がある場合、不適切なお金の使い道があって相手から取り返してくることで財産が増える場合に、通常管財事件になりがちです。
これは、予納金は、管財人の弁護士の報酬に当たる部分が大きいので、管財人の手間が大きな要因となって決まるためです。
5 管財事件の流れ
では、管財人がつく事件の流れを見てみましょう。
⑴ 自己破産の依頼
まず、自己破産する方が、弁護士などの専門家に相談し、依頼をします。
この弁護士は、先ほど書いた申立代理人という立場になります。
⑵ 受任通知の発送
弁護士が、受任通知という、「弁護士が窓口になって自己破産の準備をします」という通知を発送すると、債権者に対して返済しなくても、原則として督促を受けない状態になります。
これは、貸金業法で、貸金業者は、弁護士などの専門家から、債務整理をするという通知を受けた場合は、本人に直接取り立てをすることが禁止されるためです。
⑶ 自己破産の申立ての準備
自己破産する方は、依頼する弁護士の助けを借りながら、資料の収集や自己破産に必要な費用を準備します。
依頼する弁護士が資料を整え、自己破産する方から債務が増えた経緯やお金の使い道などを聴き取って整理し、裁判所に自己破産の申立てをします。
この段階では、申立代理人の弁護士は、管財事件になるか、同時廃止で終わるかについて、ある程度の見通しを立てていますが、正確には、その後、裁判所が管財事件か同時廃止かを決めます。
⑷ 裁判所が管財人を選任する
裁判所は、自己破産の申立ての書類を見て、同時廃止で終わらせることができるか、管財事件とすべきかを審理します。
この段階で、裁判所から追加の資料の提出や事情の説明を求められることもありますし、自己破産する方と申立代理人の弁護士が、裁判所に行って裁判官と面談することもあります。
裁判所は、管財事件とすべきと判断すれば、申立代理人とは別の弁護士を管財人に選びます。
⑸ 管財人との面談
自己破産する方は、管財人が決まれば、1~2週間程度のうちには、管財人と面談する必要があります。
場所は、原則として管財人の弁護士の事務所です。
自己破産する方は、法律上、管財人に対して事情を説明する義務がありますので、書類だけでは分かりにくいところを管財人に説明することになります。
管財人と会う回数は、1回だけのこともありますが、複雑な事件であれば、事情をきくため、管財人から5、6回呼ばれることもあります。
⑹ 管財人の財産処分、免責意見
管財人は、自己破産する方の財産のうち、どれを残して、どれを債権者に分けるべきかを決めます。
そして、債権者に分けるべきと判断した財産は、売ってお金にかえ、負債額と法律が定める優先順位に従って、債権者に分配します。
また、管財人は、自己破産する方の生活状況や、手続きに誠実に対応したか等、様々な事項を調査して、債務の支払義務を免れさせて良いかどうか、意見を述べます。
⑺ 債権者集会、自己破産の終了
管財事件では、債権者集会という、債権者向けに説明する機会があります。
通常、3か月に1回程度、裁判所で行われます。
債権者集会は、管財人が財産をお金にかえて債権者に分け終わり、かつ、免責について意見を述べられる状態になるまで行われ、通常1~4回程度です。
最後の債権者集会の直後に、免責が認められて、自己破産が終了するのが通常です。
6 管財人との接し方
では、自己破産する方は、管財人とどう接すればよいでしょうか。
管財人は、自己破産を依頼される弁護士と異なり、債権者の利益も考慮する立場なので、何でも相談してよいとは限りません。
しかし、自己破産する方は、管財人に対して説明する義務があり、説明を拒むことは免責されない事由に当たっているので、何も話さないことはできません。
また、管財人は、財産を残すことや免責を認めることに非常に大きな権限を持っているので、むやみに対立するのは、不利に働きがちです。
そこで、自己破産する方が聞きたいことができた場合は、自己破産を依頼される弁護士にまず相談し、自己破産を依頼される弁護士が、管財人に相談するべき問題であると言えば、管財人に相談するというのがおすすめです。
また、管財人から質問を受けた場合は、簡単なことは自分で答えればよいですが、法律上難しいことや、答えにくい内容(不利に働きそうな内容)であれば、自己破産を依頼した弁護士に相談しますといって、相談後に回答するのがよいでしょう。
自己破産を依頼した弁護士に文章にしてもらって、回答するという方法もあります。
管財人も、必ずしも敵というわけではなく、自己破産する方の利益と債権者の利益のバランスをとる立場ですので、自己破産する方は、大きな問題がなければ、管財人の意向に沿うように活動する方が、早く、円満に進みます。
しかし、管財人に、代わりのきかない財産を処分されたり、困難な弁償を求められるケースもあり、その場合は、自己破産を依頼される弁護士に頼んで、交渉してもらうことをおすすめします。
管財人との接し方で悩むときは、まずは、自己破産を依頼される弁護士にご相談ください。