「個人再生」に関するお役立ち情報
個人再生における自動車やバイクの取り扱い
1 自動車やバイクがあることは裁判所に申告する必要があります
自動車やバイクも個人再生をする方の財産です。
したがって,少なくとも個人再生をする方の名義の自動車やバイクについては,車検証等のコピーを裁判所に資料として提出する必要があります。
なお,裁判所に提出する家計の状況(毎月の収入と支出を記録する家計簿のようなものです)にガソリン代や駐車料金等の支出が現れている場合には,個人再生をする方の名義ではない自動車やバイクについても資料の提出を求められることがあります。
2 個人再生をした場合,自動車やバイクは手元に残るか
⑴ ローンが残っていない自動車やバイクについて
ローンが残っていない自動車やバイクは手元に残すことができる場合もあります。
自己破産をする場合にはローンが残っていない自動車やバイクであっても手元に残らない可能性が高いのと対照的です。
なお,自己破産をする場合であっても,ローンが残っていない自動車やバイクについては多くの場合で自由財産の拡張が認められ,手元に残る可能性が高いといえます。
しかし,自己破産をする場合では,例えば自動車が2台ある場合に2台とも残すことができるかどうかには疑義があります。
これは,通常は1人の方が自動車を2台保有する必要がないためです。
そうすると,自動車を2台とも残すことはできず,1台は売却されてしまい手元に残らない可能性があります。
このような場合に自動車を2台とも残すためには,2台の自動車を手元に残す必要性が高いことを説明する必要があります。
たとえば,同居している家族が勤務先に通うために使用している車であり,なくなってしまうと生計が立たなくなってしまうような場合です。
自己破産をする場合,このような説明をつけて自動車を2台残せる可能性を探ることになりますが,必ず2台とも残すことができる保証はありません。
このあたりは,選任される破産管財人の個性や裁判所の判断,その他の周辺事情といった多くの事情によってくると思われます。
その他,問題となっている自動車が特に利用していない外国産の高級な自動車であったとすると,自己破産を選択した場合は手元に残らない可能性があります。
これに対し,個人再生を選択した場合には,自動車やバイクが破産管財人により売却されてなくなってしまうリスクについては基本的には避けることができます。
⑵ ローンが残っていない自動車,バイクの財産的価値
ローンが残っていない自動車やバイクには財産としての価値があるため,その金額を裁判所に申告し,資料を提出する必要があります。
そして,その自動車やバイクの金額は個人再生における返済額に影響してくることがあります。
個人再生における返済額は,個人再生をする方が所持している財産を全てお金に変えた場合の額を下回ることができません。
たとえば,負債額が600万円の方が個人再生手続きを利用する場合,負債額は120万円に減額されるはずです。
しかし,個人再生をする方が,200万円の価値があるローンの残っていない自動車を持っているとしましょう。
そうすると,この場合に個人再生手続きを利用したとしても,少なくとも200万円を返済する必要があります。
これを清算価値保障原則といいます。
ローンの返済が終わっている年式の新しい車や,外国産の高級車を所持している方が個人再生をする場合には,清算価値保障原則との関係で注意が必要であると考えられます。
⑶ ローンが残っている普通自動車について
ⅰ 基本的にはなくなってしまいます
ローンが残っている普通自動車については,個人再生手続きをする場合,基本的には手元に残らず,引き上げられてしまいます。
これは,ローンが残っている普通自動車については,ローンを払い終わるまでは自動車の所有権が販売会社に残るという契約になっていることが多いためです。
ローンを払い終わるまで販売会社が自動車の所有権を留保していることから,留保所有権と呼ばれています。
ⅱ 自動車が手元に残る場合について
ただし,普通自動車に留保所有権がついているとしても,引き上げの要求に応じてよいかどうかについては難しい問題があります。
販売会社が留保所有権を有している場合,一般的には車検証の所有者欄が販売会社となっています。
しかし,自動車の引き上げを請求してくるのは販売会社ではなく,販売会社への支払いを保証している信販会社となる場合があります。
このような事例で信販会社が自動車の引き上げを請求してきた場合には注意が必要です。
最高裁の判決には,車検証の所有者欄の記載が引き上げを請求する債権者の名義になっていない場合には,対抗要件があるとはいえないため,留保している所有権を行使することができないとしたものがあります。
つまり,車検証の所有者欄が販売会社となっているケースで信販会社が自動車の引き上げを請求してきた場合には,再生手続きとの関係ではその請求が認められないという判断をしています。
引き上げを拒むべきであるにもかかわらず,引き上げに応じてしまった場合には,自動車の価値のいくらかが個人再生における返済額に計上されてしまう可能性があるため注意が必要です。
なお,この場合に自動車の引き上げを拒んだとしても,信販会社が個人再生手続の開始決定前に自動車の引き渡しを求めて裁判を起こした場合,個人再生をする方は負けてしまい,自動車を引き渡さなければなりません。
引き上げを拒むべきであるにもかかわらず,裁判になると負けてしまうというのは若干奇妙な感じがしますが,平成29年時点での実務はそうなっています。
そうすると,引き上げを拒むべき場合であったとしても,自由に自動車に乗り続けることには危険が伴うかもしれません。
もし仮に事故を起こして車を故障させてしまった場合,弁償させられる恐れがあります。
少なくとも個人再生手続中は乗らないようにするか,仮に乗る場合であってもせめて任意保険(人損,物損両方)にはしっかり加入しておくなど,安全策を講じておくべきであると思われます。
方針を決めるときは必ず弁護士に相談することを推奨します。
ⅲ 信販会社が引き上げを請求してきたとしても,引き上げに応じるべきであると考えられる場合
この点は非常に難しい問題であり,今後の議論も踏まえて慎重に対応する必要があります。
契約書の記載上,車検証の所有者欄が販売会社名義であっても信販会社に留保所有権の対抗要件が認められるように工夫されているものや,販売会社が信販会社に債権譲渡をすることで留保所有権も同時に譲渡していると考えることができる場合には,引き上げに応じるべきであると考える余地があります。
まずは相手方債権者が,どのような理屈に基づいて引き上げを請求してきているのかを書面等で確認してみるべきです。
また,車の引き上げに関しては,必ず弁護士に確認したうえで対応する必要があります。
ⅳ 車検証の名義が,個人再生をする本人名義となっている場合
銀行のローンでお金を借りて自動車を購入している場合には,車検証の名義が,個人再生をする本人名義となっていることがあります。
この場合は,基本的には個人再生をしても自動車は手元に残ることもあります。
これは,銀行ローンにより借り入れたお金で車の代金は一括で支払っており,後は銀行に対して分割で返済しているという形式であるため,留保所有権がそもそも設定されていないからです。
ただし,契約書の記載の仕方によっては自動車の引き上げの請求がなされることがあり得ますので,一度確認してみる必要があると思われます。
⑷ ローンが残っている軽自動車やバイク
軽自動車やバイクについては,留保所有権の行使ができる場合が普通自動車とは異なっています。
普通自動車の場合は車検証の所有者の欄の記載が重要でしたが,軽自動車やバイクについては,引き上げを請求している債権者が「引渡し」を受けているといえるかどうかが重要です。
ここでいう「引渡し」は法律用語であり,物理的に軽自動車やバイクを管理している必要まではありません。
契約書の記載等の事情から,個人再生をする方が引き渡しを請求する債権者の代わりに軽自動車やバイクを管理していると認められれば,「引渡し」を受けていると認められます。
ローンが残っている軽自動車やバイクの場合には比較的容易に「引渡し」を受けていると認められる傾向にあるため,基本的には引き上げられてしまうと思われます。
なお,軽自動車の規格は,排気量660cc以下,長さ3.4m以下幅1.48m以下,高さ2.0m以下の三輪および四輪自動車とされています。
このあたりの数値は車検証にも記載されています。
⑸ リースを組んでいる車の取り扱い
自動車をリース契約により使用している場合にも,基本的には個人再生をする場合に手元には残りません。
リース契約は賃貸借契約に類似しており,リース料を支払い続けてもユーザーの所有物になることはないためです。
リース契約の法律的な位置づけには様々なものが存在しますが,担保権として取り扱われることが多いです。
そうすると,所有権留保の場合と同様,その担保権を再生手続きとの関係で行使できるのかどうかという点が問題となり,車検証や契約書の記載を確認する必要があります。
⑹ その他,実際に自動車の引き上げに応じる場合の注意点
車検証や契約書の記載,相手方債権者の意見等も踏まえて,自動車の引き上げに応じるべき場合,以下の点を相手方債権者に求められることが一般的です。
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